東京地方裁判所 昭和60年(特わ)2549号 判決 1986年2月21日
本店所在地
東京都足立区宮城一丁目一七番二一号
株式会社 リード工業
(右代表者代表取締役 瀬山政雄)
本籍
東京都足立区宮城一丁目三一番地
住居
同区宮城一丁目一七番二六号
会社役員
瀬山政雄
大正一一年二月一日生
右両名に対する各法人税法違反事件について、当裁判所は検察官會田正和、同櫻井浩出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社リード工業を罰金三五〇〇万円に、被告人瀬山政雄を懲役一年にそれぞれ処する。
この裁判確定の日から被告人瀬山政雄に対し三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社リード工業(以下「被告会社」という。)は、東京都足立区宮城一丁目一七番二一号に本店を置き、オートバイ用部品等の製造及び販売を目的とする資本金三〇〇〇万円(昭和五七年一二月一一日以前は二〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人瀬山政雄(以下「被告人瀬山」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統轄しているものであるが、被告人瀬山は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の除外・架空仕入の計上等の方法により所得を秘匿したうえ
第一 昭和五七年六月一日から同五八年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五億七七五七万八八六円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年七月二九日、同都立足立区栗原三丁目一〇番一六号所在の所轄西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億二〇〇九万七九八八円でこれに対する法人税額はが一億三一五一万八一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第一五六号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二億三九六五万四八〇〇円と右申告税額との差額一億八一三万八七〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ
第二 昭和五八年六月一日から同五九年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億四六三四万九一三七円であった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年七月三一日、前記西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億九〇六一万九六五六円でこれに対する法人税額が一億二二四一万五〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億四六五四万三九〇〇円と右申告税額との差額二四一二万八九〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れたものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人瀬山の当公判廷における供述
一 被告人瀬山の検察官に対する昭和六〇年九月四日付(二五丁のもの)、同月五日付二通(三六丁のもの及び八丁のもの)、同月九日付二通(三一丁のもの及び六丁のもの)各供述調書
一 柴田勇及び杉本定良の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 当期仕入高調査書
2 期末棚卸高調査書
一 検察事務官作成の捜査報告書
一 登記官作成の商業登録簿謄本
判示第一の事実につき
一 被告人瀬山の検察官に対する昭和六〇年九月四日付(五六丁のもの)、同月五日付(二六丁のもの)、同月九日付二通(二九丁のもの)各供述調書
一 瀬山是則の検察官に対する供述調書
一 中村卓治及び薄井春生の収税官吏に対する各質問てん末書
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 売上高調査書
2 雑収入調査書
一 押収してある被告会社の法人税の確定申告書(昭和五七年六月一日から同五八年五月三一日までの事業年度分)一袋(昭和六〇年押第一五六七号の2)
判示第二の事実につき
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 公租公課調査書
2 受取利息調査書
3 支払利息調査書
一 押収してある被告会社の法人税の確定申告書(昭和五八年六月一日から同五九年五月三一日までの事業年度分)一袋(同押号の1)
(法令の適用)
一 罰条
1 被告会社
判示第一及び第二の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条 一、二項
2 被告人瀬山
判示第一及び第二の各所為につき、法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
被告人瀬山につき、懲役刑を選択
三 併合罪の処理
1 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人瀬山
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人瀬山につき、刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、オートバイ用部品等の製造及び販売を行っていた被告会社の代表取締役である被告人瀬山が、個人として行っていた商品先物取引での損失を取り戻すために右取引にあてる資金や同被告人の弟の政治活動資金等に充当する金を捻出するため、売上を除外したり、架空仕入を計上するなどの方法により、二事業年度分の合計で一億三二二六万円余の被告会社の法人税を免れたというものであって、そのほ脱額が高額であるうえ、ほ脱率も通算で約三四パーセントと被告会社の事業内容を考慮すると高率であるが、ほ脱の具体的方法も、売上を一部除外し、これが発覚しないように月次試算表及び売掛金月別集計表等を改ざんさせ、裏に回した受取手形の取立専用に決算報告書に登載しない銀行口座を開設するなどし、また、仕入先と予め打ち合わせたうえ、仕入先から架空の納品書及び請求書を郵送させて、請求額に見合った手形を渡し、後日仕入先から送金小切手を受けとってそれを現金化するなど巧妙であり、全体としての犯情も悪質である。さらに、被告会社においては、被告人瀬山の指示により本件の数年前から期末棚卸高の圧縮や架空仕入の計上が行われてきたことが窺われることも併せ考慮すると、被告人瀬山の刑事責任は重いといわなければならない。
しかしながら他方、本件ほ脱所得の大半を占める昭和五八年五月期の売上除外は、決算段階において一挙に数字の操作を行ったもので、事業年度の途中から計画的に事を運んだわけではなく、したがって、売上除外の発覚を防ぐため、前記のように月次試算表の数字を改ざんしてはいるものの、元帳や伝票それ自体に工作を加える等の殊更な隠匿工作まではおこなっていないこと、被告会社は本件の二事業年度だけでなく、昭和五五年五月期以後の法人税及び地方税についても修正申告のうえ、いずれも完納したこと、被告人瀬山は本件を反省し、税理士事務所の被告会社の担当者を従業員として雇用し、今後の納税に遺憾がないようにすることを誓っていること、同被告人はこれまで真面目に働き、前科前歴を有しないこと等、被告人瀬山に有利な事情も認められるので、これらを斟酌して、今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑 被告会社につき罰金四〇〇〇万円、被告人瀬山につき懲役一年)
よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 石山容示 裁判官 鈴木浩美)
別紙(一) 修正損益計算書
株式会社 リード工業
自 昭和57年6月1日
至 昭和58年5月31日
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
株式会社 リード工業
自 昭和58年6月1日
至 昭和59年5月31日
<省略>
別紙(三) 税額計算書
会社名 株式会社リード工業
(1) 自 昭和57年6月1日
至 昭和58年5月31日
<省略>
(2) 自 昭和58年6月1日
至 昭和59年5月31日
<省略>